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中部経済新聞連載「マイウェイ」第24回

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チューチョ・バルデスに直接依頼

キューバ大使館からオファー
NHKアニメ「モリゾーとキッコロ」の音楽制作をどうにか終えて落ち着いたころ、キューバから国際電話がかかってきた。電話の主は在キューバ日本大使館の文化担当の方だった。キューバの首都ハバナのコンサートホールでの演奏のオファーだった。聞くと日本キューバ国交樹立100周年を記念し、キューバと日本にゆかりある音楽のコンサートを開きたいというのだった。
かつてキューバのカマグエイで暮らしていたころ、国営テレビやラジオに出演して、キューバを代表するピアニストのチューチョ・バルデスを追いかけてキューバまでやってきたことを度々話していた。この話が大使館にも伝わっていたようだった。
その記念コンサートで「キューバ人の誰かと共演してほしい。どなたか希望の共演者はいませんか?」というのだ。そう聞くなり、とりあえず電話口で口走ってしまった。「チューチョ・バルデスと2台のピアノで共演したいです」と。
数日後に再びキューバの大使館から電話がかかってきた。驚くことに「今週、チューチョ・バルデスがたまたま東京に演奏旅行に来ているので、東京で本人に会って直接共演のお願いをしてほしい」というのだ。私は興奮状態にあったのだろう。どうやって新幹線に乗って、東京の会場のブルーノートまで行ったのか記憶がない。
そもそもチューチョ・バルデスの音楽に出会っていなければ、私はピアノを続けていなかったかもしれない。彼に会って、ありがとうと伝え、彼の生演奏を目の前で聞くのが長い間の夢だった。
ブルーノートの楽屋でチューチョ・バルデスご本人に会った。巨人のように大きかった。手は私の倍もあった。オクターブ分の鍵盤を親指と人差し指で軽々とつまみ、手を広げると2オクターブが届く大きさだった。
私はキューバでつくったアルバムを彼に差し出して、恐る恐るスペイン語で「このアルバムを聴いていただき、もし可能であれば、私と2台のピアノで共演してくださいませんか」と尋ねた。
彼は笑顔でアルバムを手に取ってくれた。続けて「僕を探してキューバにやってきた『おちんピアニスト』が君だね。録音なんか聞かなくても喜んで一緒に弾くよ」と話してくれた。夢に手が届いた瞬間だった。

  • 2023年03月29日(水)21時00分
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