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中部経済新聞連載「マイウェイ」第4回

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ビートルでスペインまで
ドイツ

4歳の頃、父の仕事のために1年ほどドイツへ行き、暮らした。ドイツでの思い出は、その後の自分の人生の道探しで大きな道しるべになっていると感じている。
当時のことは断片的にだがよく覚えている。父が先にドイツに渡り、その後に母と弟と一緒に訪れた。
ドイツで最初に覚えている光景は、夜の高速道路だ。真っ暗闇の中、車に乗りながらリズミカルに通り過ぎていく街灯の光を見て、とてもきれいだと思った。
日常生活の思い出も多い。「エデカ」というスーパーマーケットの燻製(くんせい)肉の匂い、かむほどにおいしくなった真っ黒なパン、父がライン川に向けて野球バットで石を打つ音、近くの教会から聞こえてきた鐘―。現地での匂いや音が強烈な思い出として刻まれている。
ドイツ滞在中には家族そろって旅に出た。父が青色のフォルクスワーゲンの通称ビートルを購入し、それに乗ってスペインまで向かったのだ。弟はまだおむつをつけていた。この時の経験が、私自身が旅をする事が好きになった根源であるような気がしている。
ビートルに揺られながら、ドイツからフランスを縦断し、ピレネー山脈を越えてスペインに行った。片道3千キロメートルはあっただろうか。今、振り返ってみても壮大な旅である。  旅の途中、それまで見たことのない砂漠のように乾燥した土の上を走り、砂煙が窓の横から見えた。いろいろと家が壊れていたこと、ひなびた村があったことなども記憶している。当時のスペインはまだフランコ政権で、途中、なぜか警察に止められたこともあった。
スペイン北部のバスク地方に位置するサン・セバスチャン、ブルゴス、エル・エスコリアルなどスペイン各地を巡り、南部アンダルシア州のジブラルタル海峡近くまで訪れた。行く先行く先、全て寺院か美術館を見て回った。
車内はとても幸せな空間だった。外はどんどん景色が変わり、人が話す言葉も変わっていくのに、小さなビートルの中は父も母も弟もずっとそこにいて、何も変わらなかった。守られた暖かい空間から変わりゆく景色や空、星空を眺めていた最高に幸せな時間だった。  この思い出は「いくなら徹底的にやろう」「とてつもなく美しい景色を堂々と見よう」という生き方を選ぶきっかけになった。ドイツで暮らしたいと思うようにもなった。

  • 2023年03月04日(土)19時26分
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